小田急10000形電車
概要
1987年の小田急電鉄の開業60周年を記念して同年に登場し、先頭部分の展望室以外の客室を全て高床化したハイデッカー構造の特急形電車が小田急10000形です。当系列には"High Super Express"(略称:HiSE)という愛称がついていますが、この愛称の中の"High"は"High performance"といった言葉から連想できる「上級」というイメージを表したものであり、特定の語の頭文字ではないとされています。
1987年当時、観光バスなどで高床車(ハイデッカー車)の導入が進んでおり、また他の鉄道事業者においてもハイデッカー構造の観光用車両が登場し始めていました。そして、この当時のレジャーの傾向は多様化が進んでおり、乗車時の「ゆとり」の他に「一味違ったもの」が求められていました。こういったニーズに対応するために、当系列では小田急7000形(愛称:LSE)に引き続いて先頭部分の展望室と11両連接構造を採用した上で、展望室以外の乗客も車窓を楽しむことができるようにハイデッカー構造で設計され、加えて車体塗装および内装のカラーリングも変更することでイメージの一新を図っています。
先頭部分の上段に設置された乗務員室は7000形よりも前方に移動しており、これによって乗務員室と展望室の傾斜を一体化させています。また、展望室の窓の大きさが7000形よりも拡大され、その傾斜角は7000形の48度から37度に、そして乗務員室の窓の傾斜角も7000形の50度から45度に強くされ、スピード感を持たせるとともに運転士の視野の拡大を図っています。尾灯や標識灯、車側灯にはLEDを使用しています。なお7000形では前面に設置されていた愛称表示器は、当系列においては側面で一番前方側のドアの上部脇に設置されています。
側面のドアには7000形と同様の自動の折戸を採用していますが、先述のように当系列はハイデッカー構造であるために中間車のドア内側には階段が設けられています。なお、先頭車にはハイデッカー構造ではない展望室のすぐ横にドアが設置されているため、ドア内側に階段はありません。なお1999年7月まで、特急に乗車する際は乗車口を限定した上で、ホームで特急券を確認するという乗車前改札が行われていたため、駅でのドアの取扱いを考慮してこの折戸は半自動扱いも可能となっています。
塗装にはパールホワイトをベースとし、ロイヤルケープレッドの濃淡2色を直線的に配し、流れるようなスピード感と若々しさを表現したデザインが採用されました。ちなみに、当系列は側面の窓柱にも焼付塗装ガラスを取り付けているため、連続窓があるように見えます。
車内の座席には7000形とは異なる通常の回転クロスシートを採用していますが、この座席の背もたれの傾斜角は、7000形で採用されていたリクライニングシートをリクライニングさせた時の傾斜角と同じです。モケットには江ノ島と芦ノ湖をイメージした青色系のものと、太陽をイメージした赤色系の色のものを採用しています。なお、この座席は7000形と同様に、列車が折り返す際の車内整備を省力化するため、スイッチ操作で一斉に自動回転できる機能を持っています。
内装は落ち着きのある楽しい雰囲気を作り出すために暖色系の配色とされているほか、壁面のテーブル下には栓抜きが設置され、車内通路にはエンジ色のカーペットを敷いて豪華さを演出するとともに歩きやすくしています。なお1989年に増備された第3、第4編成では、車内通路のカーペットが青色系のものに変更され、座席背面には格納式のテーブルが新たに設置されています。
車内には他にも、先頭車とその隣の車両の間を除く全ての貫通路に自動扉が設けられ、テレホンカード式公衆電話が車内に1箇所、喫茶コーナーは2箇所設置されています。この喫茶コーナーには小田急で初めてコーヒーマシンが設置され、加えてオーダーエントリーシステムを初導入し、注文から提供までの迅速化を図っています。
歴史
導入後すぐは「はこね」の一部列車に限定運用されていましたが、後に「あさぎり」以外の全ての特急列車に使用されるようになりました。1988年に鉄道友の会のブルーリボン賞を受賞しています。1987年から小田急20000形(愛称:RSE)が登場する1991年までは小田急のロマンスカーのイメージリーダーとして扱われていました。
1999年には車内に空気清浄器を設置しています。第4編成は2001年から約1年間「日本におけるイタリア2011」を記念し、同タイトルのステッカーを車体に貼りつけた上で、イタリアの国旗をイメージした緑・白・赤の3色ストライプを追加した状態で運転されました。
2002年からは、当系列が登場した1987年と比較すると45%も落ち込んでいた箱根方面の特急の利用者数をイメージアップによって底上げするために、当系列が再びロマンスカーのイメージリーダーとして登板することとなり、これは小田急50000形(愛称:VSE)が登場する2005年まで続きました。
しかし、2000年に交通バリアフリー法が制定されると、ハイデッカー構造の当系列は法律の基準に対応することができないため、順次廃車する方針となりました。2005年に小田急50000形の投入が開始されると当系列の廃車が始まり、最後まで残った第1編成も2012年3月のダイヤ改正をもって運用を終了しました。
現状
小田急電鉄の車両としては既に全編成が廃車されていますが、2005年に廃車された2編成は塗装の変更や4両編成への改造が行われた上で同年に長野電鉄に譲渡され、長野電鉄1000系電車として現役で活躍しています。
走行音は準備中です。
廃形式につき走行線区は省略
フォトギャラリー
画像をクリックすると拡大できます。
喜多見駅にて
海老名検車区にて
先頭部分側面
愛称表示器
小田急電鉄のロゴ
ロマンスカー&震災復興応援ロゴ
ラストラン時のロゴ
連接台車
中間車連結部分
中間車 ドア内側部分
中間車 ドア内側の階段
ブルーリボン賞の受賞プレート
空調機器制御盤
車内貫通路部分
洗面台
喫茶コーナー
車内
青色系モケットの座席
赤色系モケットの座席
車内端部
展望室
展望室ドア横の補助座席